2018年2月23日金曜日

300:よい意思決定は正確な状況の把握から

国家予算の件について書いたが、関連して意思決定とについて書きたい。

国家の政策が順調に進まない場合、一般的にはさらに補正的に予算をつける場合が多い。
私の経験談で恐縮だが、マレーシア政府の英語教育の強化に関してコンサルティングをしたことがある。
国家予算をつかってどのようなカリキュラムを組むか、英語教師の強化教育をどうするか、英語ネイティヴ教師の採用をどうするか、などといったテーマの検討が行われていた。
しかしこの議論の延長では、費用が限りなく膨らんでしまいかねないと思い、ある簡単な事例を紹介した。

その事例とは、書類が詰まった4段のファイルキャビネットを隣の部屋に移動する必要がある、という状況である。

書類が大量に入っているため、どうやら人手での移動は不可能である。
そこで考えられることとして、キャビネットの重さを測る、移動計画書を策定する、移動するための方法を選ぶ、さらにその延長線上では移動するためのクレーンを設置する……といった途方もない案まで次々に考案されるかもしれない。
結果、総経費〇〇億円の決済を……ということになってしまう。

しかし当然のことながら、知恵者はキャビネットの引き出しを引いてそれぞれ移動させるということを思いつくだろう。
この例は大げさかもしれないが、しかし現実にもこれに近いことが行われているようにも思う
大きな問題を処理しやすい部分に分解し、個々に処理することが、良い意志決定につながるのである。

2018年2月16日金曜日

299:各省庁の課長補佐の問題意識

非常に古い話で恐縮だが、人事院主催の各省庁課長補佐研修の講習をしたことがある。
この研修は年2回、7年間に渡って実施されたものである。
期間は2日間、総勢約50人ほどだった。
古い資料を整理するなかで、平成12年の研修での参加者アンケートが出てきたので、その概略を披露することにする。

日本の教育がいまだに知識偏重にあるなか、教育改革の模索のひとつの視点として参考になればと思う。
つまり単に知識ばかりを覚えるのではなく、万人が共有できる考え方の枠組みを、日本でも構築しなければならないということだ。
この問題は日本人が国際社会で対等に渡り合うための避けては通れない領域と私は叫び続けてきた。




人事院主催各省庁課長補佐研修アンケートの要約

(個別の記入例は別紙)

講義内容:「管理者の思考と決断」
参加対象:各省庁課長補佐52
講師:飯久保廣嗣
実施時期:平成12年9月5日~6日
場所:国家公務員研修センター

設問(I) ラショナル思考の実務における必要性と有効性について……回答51

①必要性について
・「必要性については現時点では、何とも判断できない」といった23の回答を除き、ほぼすべての回答者がラショナル思考の必要性について肯定的に答えた。

・肯定的な意見として、役所における「政策決定」「業務遂行」において、ラショナル思考は必要と思われる、とするものが多かった。

・「実務において問題・課題を解決・対応していくためには問題等を列挙し、複数化し、優先度を設定し、原因の消去等思考プロセスは必要であり、有効である。」

・「前例主義」的な思考業務「非論理的思考」(人情・経験等)によって意思決定がなされがちな現状を変えるきっかけとして必要となり得るとする回答も散見された。

・また「雪印や神奈川県警・新潟県警の問題等」においても「ラショナル思考による対策」が必要だったのではないか、といった具体的な事案に触れた回答も見られた。

②有効性について
・必要性と同様、肯定的な回答が大半を占めた。

・「本省庁等においては必要性・有効性共に大であるとおもう。」

・「普段、意識せず行っている思考プロセスを論理的に整理してみることは有益。そのプロセスの中で自己の弱い部分が発見できれば、意識的にその部分を強化した思考にすると良い」

・有効性に関連して特に多かった点として、ラショナル思考の「体系性」が挙げられる。ともすれば直感的、経験的に判断してしまう業務において、対象をいちど図式化、数量化し、4つの思考領域に分けて分析するという論理的思考の体系性によって、議論・業務が効率化されたり、あるいはヌケ・モレのない判断が可能になるとした意見が多く観られた。

・肯定的な意見に限定を付すものとして、業務に当てることのできる時間に限りがあり、十分な分析ができない可能性を憂う回答、またラショナル思考を実際に導入するに際して先ほどの「前例主義」とバッティングするおそれを指摘する回答が散見された。

・肯定的な意見に限定を付すものとして、業務に充てることのできる時間に限りがあり、十分な分析ができない可能性を憂う回答、またラショナル思考を実際に導入して前述の「前例主義」とバティングする恐れを指摘する回答が散見された。しかし、6年前(当時係長であったと思われる)に飯久保講師の講義を受けた参加者からは、前回同様感銘を受けた、との印象的なコメントも残された。

設問(II)わが国の社会における思考様式(論理思考)の国際化に関する今後の必要性……  回答49件、無回答2

・上記と同様、肯定的な意見が大半を占めた。特に国際化に関しては、「絶対に必要」「ますます重要というか、必要性は増加していくと思う」など、その必要性について強く肯定的な意見を示す回答が多く見られた。

・具体的には、国際化という文脈において、他国と同じテーブルにおいて交渉する際、思考様式を共有することが必要であるとするものが非常に多かった。

・「国際社会の標準仕様に合わせていくということでは、こういったことは今後重要となると認識する。」

・「急速な国際化が進む社会において(中略)多くの人々が論理思考をマスターしていくべきである。」

・あるいは「わが国の国際社会への対応」への「はがゆさ」、「日本が国際社会から置いていかれる」といった問題意識があり、論理的かつ国際的に応用が可能なラショナル思考への評価へとつながっていると考えられる。

・「グローバル社会において日本の思考様式が通用する範囲には限界があり、行政自らが意識の改革を推進するべきと考える」

・「講義の中でおっしゃられていた通り、今日のわが国の国際社会への対応は歯がゆいと感じることが多すぎます。国際社会に大人として対応するにはこの思考様式は欠かせないと思われます。」

・より発展的な回答として、振り返って日本文化にもラショナル思考的な発想はあるのではないか、あるいは日本的な思考とラショナル思考の融合は可能か、等と問うものも見られた。

以上である。

大変残念なことに、現状の教育改革は、この領域に関心を払っているとは思えないのだが、いかがだろうか。

2018年2月10日土曜日

298:公的債務残高のGDP比(%)

IMF, Fiscal Monitorの2017年10月版で、主要7か国の公的債務残高が示されていた。
ここにそのデータを引用する。

公的債務残高のGDP比(%) 2017年
カナダ 89.6
米国 108.1
英国 89.5
ドイツ 65.0
フランス 96.8
イタリア 133.0
日本 240.3

このように、我が国は突出して国の「借金」が多い。
この数字についての解釈はもちろん色々あるが、国民として大きな関心を持たざるを得ない、国としての重要課題であることは間違いない。
国民も政治も、国に対しての依存を高めてしまうことが問題であるように思う。
「国が国民に何をするべきか」という要求に歯止めをかける必要があると同時に、政治や行政も国家予算の使途の無駄を省くということを真剣に考えてほしい。
家計をまかなう場合、借金に依存することは論外であり、また、家族も金の使い道に注意をしなければ家計は崩壊するのは当然のことである。

2018年2月7日水曜日

297:オーヴァープランニングは経営資源の無駄遣い

医療関連の情報システムを開発しているA社は、大口顧客から、発注した大型プロジェクトの工期を6か月短縮してほしい旨の要請を受けた。
A社では、この要請に応えるべく、設計、生産管理、営業、システムなどの関連部署が会議を重ね、新しい日程が設定された。
現在、関係者が集まって、この日程について詳しく検討する会議が開かれている。
営業部長としてなすべき最も適切な指示を下記の中から選びなさい。

A. 想定できるリスクをすべて洗い出し、あらゆる対策を講じるよう各部に指示する。
B. 期限に間に合うようなスケジュールを作成できるように各部に指示する。
C. このプロジェクトに大きな影響を与えるところを確認するよう各部に指示する。
D. ブレインストーミングを定期的に行い、起こり得る問題点を明確にし、対策を講じる。

解説
何かを変更する際には不随するリスクに対応しなければならない。
そこで、リスク対応とは何かといえば、PとSのパラメータを睨みながら、その影響を最小限に食い止める対策を講じることである。PとはProbability=発生確率、SとはSeriousness=重要度である。

A. リスクの重要度Sが考慮できていない。
全リスクを洗い出してそれらに対策を講じることは経営資源の無駄遣いである。
どのリスクが本件において重要なのかを意識しなければならない。よって誤り。

B. 単にプロジェクトの期限に間に合わせるためのスケジュール作成を指示しているだけで、「工期を短縮することによるリスクの分析」という重要なポイントを外している。よってこれも正解ではない。

C. 工期を短縮することで生じうるリスクについて経営資源を投下すべきところ、つまり重要なところを確認するように指示を出している。
即ち重要度を対策のベースにしており、正解である。

D. ブレインストーミングの目的が不明確なため、その結果が散漫になる可能性が高く、またSが考慮されておらず適切な指示とは言えない。