2015年10月31日土曜日

147:企業の競争力と問題解決力

ここに2001年1月30日付の日経新聞の切り抜きがある。
タイトルは「教育を問う」。
これは日経新聞が実施した、「社長(頭取)100人アンケート」により明らかになった、彼らの懸念についての記事である。


これによれば、彼らは若手社員の「社会常識・マナーの欠如」「コミュニケーション能力(の低下)」などを懸念しており、さらに、最も多かったのは「進んで問題を見つけて解決する能力」で28.5%であり、この状況が続けば、将来「支障が出る」と50.0%が回答した。
また記事では、このことと教育の問題とが関わっており、日本の教育が抱える問題で最も深刻な点は? という質問に対し、56.0%が「問題発見・解決能力の不足」と答えたことが強調されている。


さて、残念ながら、15年経った今日、この状況が改善されているとは思えない。
どうすれば良いか。


ひとことで言えば、教育の知識偏重を改め、児童・学生に対し、「ものごとを考える」教育を行うことの重要性を認識すべきだ。
これは、言うは易し行うは難しであろう。
具体的なヒントを私なりに考えるとすれば、大学を卒業するまでに、下記に記すような教育の成果を出すことではないだろうか。


それは、直面する問題の本質を押さえ、解決し易い部分に分解し、優先順位を付けて、個々の問題をどのような思考手順で分析し結論を出すか、というプロセスを構築できる能力を開発するということだ。

2015年10月28日水曜日

146:ベニーズってなに?

以前配信した「142:リスクへの合理的な分析手順」に対してかなりの反響を頂いたので、今回も同じようなクイズを作った。
どうぞお考えください。


べニーズというレストラン・チェーンは、全国にフランチャイズを展開している。
最近、ある店舗において、顧客からの苦情の増加が本社に報告された。
苦情の内容は、料理の質に関連したものであった。
ベニーズは過去にも、工場の品質管理が原因で、料理の質に関して広範囲な地域で問題を起こしたことがあった。


今回の状況に対して、本社の責任者はどのように対応するのが最適か。
①主力工場における品質管理の徹底を指示する。
②苦情を申し出た顧客への個別対応をフォローする。
③当該レストラン以外で同様の苦情が出ているかどうか確認する。
④当該レストランの信用の回復案を店長に提出するよう指示する。




















解説。
この状況は、問題現象の原因を究明するものである。


①苦情の原因が食材にあるという短絡思考であり、的外れな指示を出してしまっている可能性がる。
②原因究明にはまったく関連しない行動である。当該状況の影響を最小化するための暫定的な対策でしかない。
④これも原因の究明にはつながらない。対策に短絡しており、適切でない。


よって、答えは③
これは、想定できる原因を消去するための重要な情報となる。
過去に工場において問題があったからといって、今回もそうであると考えるのは短絡的である。
もし当該店舗以外に問題が発生していないのであれば、問題が工場における品質管理、あるいは配送などにはないという判断の根拠になる。

2015年10月24日土曜日

145:意思決定と優先順位の混同

日本民族が2700年ものあいだ存続をし、繁栄をしてきたということは、歴史の中で適切な意思決定がなされてきたからであろう。


ここで不思議なことがある。
『広辞苑』をはじめとし、主な辞書類に「意思決定」という単語は見当たらない。
「意思」も「決定」ももちろんある。
しかし、「意思」は「何かをしようとするときの元となる心持ち」、「決定」も「物事をはっきりと決めること」くらいの定義しかない。


日本人は過去において、どのような言葉を用いてものを決めてきたのだろう。
調べてみると、三つの概念が出てくる。


①「極む」
これは、「見極める」という表現にあるように、現在の用語で言えば、組織の将来の方向や性質をきめること。


②「決む」
これは単純に経験や知識や直観などでものごとをきめること。


③「定む」
これは、最適なものをきめること。


今日使われているDecision Makingは、この「定む」に当たるものだということを指摘しておきたい。
それは、あるテーマに対して、複数の案から最適な方策・手段を「選ぶ」ということ、つまりChoiceということである。


これに引きかえ、優先順位はまったく異質のものであることを認識したい。
優先順位とは、複数の課題がある場合に、どこから手を付けるか、ということを判断することである。
つまり、優先順位はひとつのものを選ぶ、ということではない。
他に先駆けて行使する項目を判断する、というだけのことであり、つまりその事項がいくつあってもかまわないということだ。


では、この優先順位を判断する基準は何だろう。
常識的に言えば、三つの切り口がある。


①重大度
例えば、その案件の及ぼす影響が、組織の一部に対してなのか、あるいは全体に対してなのか、という基準。


②緊急度
即座に対応しなければならないのかどうか、という基準。


③拡大傾向
案件を放置しておいた場合、大きな問題になるか、あるいは消滅することになるのか、という基準。


これらの側面を考慮した上で優先順位を決めると、間違いはないだろう。
要は、意思決定と優先順位は、全く異なる考え方であり、用途もその使い方も違うのである。

2015年10月21日水曜日

144:Consequenceと北方領土

素朴な質問をしてしまう。
これは、時事問題ではあるが、日本人の思考法にも関連があり、具体的に言えばConsequenceの問題に関わるものであるだろう。


それは、北方領土の返還問題であり、国土といういわば不動産の所有権の問題である。
一朝一夕では解決できないことは承知の上で、いくつかのことを考えてみたい。


ロシアが簡単に領有権をあきらめるとは思わないが、仮に返還が行われた場合、どのようなConsequenceが起こるかということを真剣に考えてもらいたいものだ。


まず、現在居住しているロシア国籍の人たちをどうするのか。
彼らの国籍についての混乱が起こるだろう。
彼らは立ち退きを拒否するであろうし、転居を実施するためには莫大な補償が発生するだろう。
また、仮に返還されて日本の領土になった場合、北方四島に本土並みのインフラを提供する義務が発生し、膨大な費用が発生するだろう。


これら以外にも様々なConsequenceが考えられるが、つまり単純に北方領土を返還せよ、と主張することは問題含みではないか、と言いたい。


領海・排他的経済水域、漁業権がことの本質であることはもちろん承知している。
とすれば、大事なことは四島の返還ではなく、その四島に付属する海域について取引できるような知恵は果たしてないのだろうかということだ。

2015年10月17日土曜日

143:Consequenceとは――後先のことを考える

単純に辞書を引くと、Consequenceの日本語訳は「結果」とある。
さらに辞書によると、「(良くない)結果」「成り行き」「(人・事の影響などの)重要さ、重大さ」とある。


現在の我々の社会生活において、このConsequenceという考え方が、どのような影響を及ぼしているかについて考えてみたい。
私の考える本来のConsequenceの意味は、「ある行動をとった場合に起こり得る(悪い)結果」である。
このことは、意思決定を行った場合と同じで、一般に言われる「デメリット」に匹敵する。
「デメリット」をさらに明確にするならば、「起こり得る悪い現象」と言えるだろう。


このConsequenceは、西洋から入ってきたものではない。
日本の知恵の中に「後先を考えて行動しろ」という言葉があるが、これは「将来のことを考えて判断しろ」ということだ。


このように、Common Sense(良識)の範疇として使われてきた考え方が、現在の日本の社会で全くと言って良いほど活用されていないのではないか。
例えば最近起こった、マンションの基礎工事の資料を改竄した結果、建築物に傾きが生じたという報道があったが、これもこのConsequenceの考えに関わるのではないか。


つまり、現場がコンプライアンス違反をした場合に、どのようなConsequenceが起きるか、という分析を積極的にしてもらいたいということだ。
利益優先のために現場が行う違反を、現場の担当者が、どのようなことになるかを想定して上司に報告し、また、その上司が会社幹部に警鐘を鳴らすという一連のシステムができていないのではないか。
会社の中において、違反がどのようなConsequenceをもたらすかという想定がきちんとなされていないことがこういった事件を起こすのではないか。
このような想定を行うことはそう難しいことではないはずだ。


Consequenceにいついて考える、つまり、後先について考えるということを、具体的にやってもらいたいものである。

2015年10月10日土曜日

142:リスクへの合理的な分析手順

今回は、息抜きに皆さんに若干考えて頂く機会を提供したい。
下記の状況に対して、どのような手続きが最も効率が良いかをお考え頂きたい。


ある地方自治体の知事は、中期事業計画を立てる際に、緻密さに欠けているのではないかと不安を抱いている。知事はこういった不安を解消するために、部下に論理的/体系的な思考手順を共有してもらいたいと考えている。
知事の不安を解消するためにリスク分析する場合のステップとして、適切な順番に以下のものをどのように並べればよいか。


①将来起こり得る問題を想定する。
②問題が発生した時の対策を立案する。
③問題の起こり得る可能性のある領域を探す。
④予防対策を立案する。
⑤リスクを分析する範囲を決定する。
⑥考えられる原因を洗い出す。












色々な考え方があるかもしれないが、私は次のような手順が合理的であると考えるが、皆さんはどうだろう。
⑤リスクを分析する範囲を決定する。
③(その範囲内で)問題の起こり得る可能性のある領域を探す。
①(その領域内で)起こり得る問題を想定する。
⑥(それらの問題の)考えられる原因を洗い出す。
④(その原因を取り除くための)予防対策を立案する。
②(予防対策が機能しなかった場合に)問題が発生した際の(影響を最小化する)対策を立案する。


リスクへの対応を考えるときに、合理的な手順を踏むことが効率的であることを認識頂けたのではないかと思う。

2015年10月7日水曜日

141:国会議員の資格

最近のテレビの健康関連のコマーシャルに、元国会議員の杉村太蔵氏がよく登場する。
いかがなものかと思われる。
太った腹を出す姿と国会議員のイメージがどうしても合わない。
コマーシャル出演の動機は、金銭的なものと、知名度を高めるというものがあるのかもしれない。
そこで考えてしまう。


それは、国会議員として、国の経営に携わる人物としての品格である。
手段を選ばずに知名度を高めることが選挙に勝つ方法であれば、これはまことに情けない発想だと言わざるを得ない。
元とはいえ、これでは国会議員の名が泣くように思う。


この背景として、有権者の見識も問われるのではないだろうか。
国の経営をまかせる人物として、知名度よりも、重要なものがあることを認識したいものだ。
それには、メディアが選挙の際に、選挙民に対し、立候補者に関する情報を提供することが重要ではないだろうか。

2015年10月3日土曜日

140:有識者会議とは何か

最近の政府の問題解決へのアプローチを見ると、やたらと「有識者会議」による重要問題の検討が目につく。
近い例で言えば、福島の原発への対応にも、この有識者会議がなされたことが報道された。


我々は無意識のうちに、有識者会議を、問題解決に対する権威ある頭脳の集まりであると思いがちだ。
しかし、有識者による判断業務が最も適切なものであるかどうかは疑わしいのではないだろうか。
当該案件に対して、専門的な知識を持つ集団がいつも適切な判断をするとは限らない。






ではどう考えたら良いか。
私が思うに、有識者・知識人の集団よりも、「賢人」集団の判断こそが適切な結論を出すのではないかと思う。


それでは、この「賢人」とは一体何なのだろうか。
私が思う「賢人」とは、見識があり、自身の領域で継続した実績を持つと同時に、公に対しての深い関心とコミットメントがある人物のことである。
例えば、私の考えでは、稲盛和夫氏のような人物が「賢人」である。
彼は京セラ・第二電電(KDDI)を創業し、また破綻した日本航空の再建を成し遂げた「実績」を持つ。
また先端技術部門、基礎科学部門、思想・芸術部門の3部門において大きな貢献を果たした人物に毎年贈られる「京都賞」を1985年に創設するという、「公」への深い関心も持った人でもある。
私も以前この賞の式典に招待を受け、出席したことがあったが、稲盛氏の偉大なところのひとつは、この式典にも晩餐会にも彼は表に出ず、裏方を貫いたということである。
また賞の名前を「京都賞」とし、「稲盛賞」などとしなかったことにも注目したいが、この理由をお聞きする機会にはまだ恵まれていない。


僭越ではあるが、稲盛氏が京セラで成功を納めた後、全く異質の第二電電・日本航空という企業での実績を出した背景には何があるのだろうか、ということを考えてみたい。
このあたりに「賢人」の「賢人」たる由来があるように思う。


それは「合理性」にあるのではないか。
経営における、理念と合理的な発想がその本質にあるのではないかと私などは勝手に考えている。


国家的なテーマに対し、有識者会議にもこのような「賢人」と呼び得る人物を参画させることが望ましいのではないだろうか。
「賢人」とは、「有名人」のことではない。