2016年3月26日土曜日

176:起業することの意味

「起業家」と「事業家」とは、その本質において基本的な違いがあると思う。
起業家の目的は、資本主義経済において、投下された資本に対してある活動を行い、配当としての利益を得ることであろう。
単純に言えば、利益が出れば、法律や常識内であればなんでもありである。
これに比べ、事業家は、「公」の存在としての社会性を持ってきたのである。


例えば、明治の実業界においては、国の発展に必要と思われる分野において、事業家たちは仕事を行った。
これは、社会のニーズに対し新しい市場をつくりだす結果になっている。




しかし、現代の起業家について考えた場合、先の基本的な違いは、ある部分では解消されるべきだろう。
つまり、起業家の使命もまた、ただ利益を追求するだけではなく社会との接点を考えながら、新しい市場を開拓することだと思う。
既存のマーケットに侵入し、価格競争で勝負することは、真の新しい企業ではないように思う。


新しい市場の開拓とは、IT領域においてはApple、Googleといったような企業が行った活動が典型であるだろう。

2016年3月19日土曜日

175:会計検査院

最近のメディアには登場しないが、行政・司法から独立した組織として、会計検査院という組織がある。
その目的は、次のようにホームページに記載されている。
私たちの税金や国債の発行によって国が集めたお金は、各府省などで国の仕事をするために使われます。国のお金ですから、適正に、また、ムダがないように、有効に使われなければなりません。会計検査院は、この国のお金が正しく、また、ムダなく有効に使われているかどうかをチェックする機関です。



納税者のひとりとして、この独立機関が、近年どのような役割を果たしているかに関心を持つ。
国民として税金を納める義務があり、国はそれを経済的に、合理的に用いる責任があると思う。
最近、税金の無駄遣いすら問題にならなくなってきたときに、会計検査院の実態ある活動の回復を望みたい。


税金の使い道、すなわち経済性と効率性について、精査し、国民に公表する組織があってもいいのではないかと思う。

2016年3月16日水曜日

174:問題解決と論理思考力②

以前の記事に引き続き、TOLAPから、問題を出題することにする。
関心のある方は、ぜひ取り組んで頂きたい。




設問②


製缶メーカーのD社はジュースやチューハイの缶を製造し、全国に販売する企業であり、毎年安定した業績を維持している。
しかし昨日の午後、大口顧客Aからある新製品の特定ロットが変色しているというクレームがきた。当ロットは、Aのライバル社Bにも納品されている。D社は、過去、同様のクレーム処理に膨大な費用を費やした経験があり、担当事業部には迅速な対応が求められている。
担当事業部の部長として最も優先的にすべき指示を、下記の中から選びなさい。


A 当該ロットの製品を、すべて市場から回収する
B 当該製品の分析を徹底的に行う
C 特定ロットに対する顧客Bからのクレームの有無を確認する
D 事業部の総力をあげて問題解決に取り組むと顧客Aに宣言させる


解説
この設問は「問題の原因を論理的に究明する力」を問う問題である。


この設問では、「比較」という思考プロセスを持って問題の原因を究明するスキルがあるかを問うている。
同ロットの出荷先において、同様のクレームがないかどうかを調べなければ、同ロットの全数に問題があるのか、一部に問題があるのかがわからない。


Aは「クレームのあった特定ロットに問題がある」との先入観に基づく行動で、他の顧客にも同様の問題があるかないかを確認せずにすべての製品を回収すれば、それは経営資源のムダ遣いになる可能性がある。したがって、この状況下で最も優先して行うべき行動とはいえず、正解ではない。
Bでは、原因究明作業をクレームが出た製品に集中してしまうと、原因究明は大幅に遅れる可能性がある。こうしたクレームがきたら、「他との比較」を発想することが重要である。したがって正解ではない。
Cは、他の出荷先Bに同様な問題があるかないかの確認を指示しており、「他との比較」を行おうとしている。これにより、もし製造ロットが問題でないときの経営資源の無駄遣いを回避できる。よってCが正解。
Dは一見もっともらしく見えるかもしれないが、指示が分析的、具体的でなく、真の原因究明にはつながらない。

2016年3月12日土曜日

173:稀に見るすばらしい判断

元「なでしこジャパン」の澤選手が、自民党の出馬要請を断った、と報道された。
私は、この報道を、ふたつの観点から考えてみた。


ひとつは、どのような事情や背景があったにせよ、自民党の要請を断ったことは、まことに見識の高い判断であったと考えて良いということだ。
知名度が高いだけでは国を経営する資格が十分とは言えないと思う。
ポピュリズムで推薦された議員が国政でどの程度の貢献をしたか。
近年では柔道の谷元選手の例があるが、どうだろう。


ふたつ目は、政党が推薦する議員候補の選定条件をどのように考えているのか。
単に知名度が高いだけで人選をしているのであれば、国会そのものが機能しなくなる心配がある。
民主主義は、単なる数合わせでないことを当事者も国民もよく認識しながら、このような現象が起きる背景をしっかりと分析してもらいたい。


要は、候補者がどのような仕事をしてきたかという実績や、どのような政治信条を持っているかということを根拠に国民が選挙をするのである。

2016年3月9日水曜日

172:問題解決と論理思考力①

米国ETS(Educational Testing Service, Priceston)と共同でTOLAP(Test of Logical  Ability in Problem Solving)を開発したことがある。
このテストは、72問、2時間の実践的な論理思考を評価するものである。グローバル人材の要請が急務である今日、このようなテストも実態を把握するための一助になるのかもしれない。
これからは、折に触れ、このTOLAPから関心がありそうな問題を提供し、みなさんに考えていただきたいと思う。





設問①
携帯電話を開発・製造しているA社は、大口顧客から「発注した大型プロジェクトの工期を三か月短縮してほしい」旨の要請を受けた。A社では、この要請に応えるべく、設計、生産管理、営業、システム等の関連部署が会議を重ね、新しい日程が設定された。現在、関係者が集まって、この日程について詳しく検討する会議が開催されている。
事務部長としてなすべき最も適切な指示を下記の中から選びなさい。


A 想定できるリスクをすべて洗い出し、あらゆる対策を講ずるよう各部に指示する
B 期限に間に合うようなスケジュールを作成し、厳守するよう指示する
C このプロジェクトに重大な影響を与えるところを確認するよう各部に指示する
D ブレインストーミングを定期的に行い、起こり得る問題点を明確にし、対策を講ずる


解説
この設問は「リスクに有効に対応する力」を扱う問題である。




リスク対策とは何かといえば、PとSのパラメータを睨みながら、リスクの顕在化に際し、その影響を最小限に食い止める対策を講じることである。PとはProbability=発生確率、SとはSeriousness=重要度である。


Aは、リスクの重要度Sが考慮できていない。全リスクを洗い出してそれらに対策を講じることは経営資源のムダ遣いである。どのリスクが本件において最も重要なのかを意識すべきである。したがってAは正解ではない。
Bは、単にプロジェクトの期限に間に合わせるためのスケジュール作成を指示しているだけで、「工期を短縮することによるリスクの分析」という重要なポイントを外している。したがってBも正解ではない。
Cは、工期を短縮することにより考えられるリスクについて経営資源を投下すべき重要なところを確認するよう指示を出している。すなわちリスクの重要度を対策のベースにしており、正解である。
Dは、ブレインストーミングの目的が不明確なため、その結果が散漫になる可能性が高く、またSが考慮されておらず適切な指示とはいえない。



2016年3月2日水曜日

171:国際社会はどう評価するか

日本が米国に次ぐGDP2位の時代には、日本および日本人は、国際社会で高い評価を受け、尊敬もされていた。
「失われた10年」が30年になろうとしている今日、日本への国際社会の評価はますます低下の一途をたどっているだろう。


ところで、ハーバード大教授の、Joseph S. Nyeが「ソフト・パワー」という概念をはじめて使ったのは1990年の『不滅の大国アメリカ』であると本人が述べている。
氏は、「ソフト・パワーとは(中略)強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力である。ソフト・パワーは国の文化、政治的な理想、政策の魅力によって生まれる」と定義を行っている。


今回の前経済再生担当相の利権に基づくスキャンダルはNye教授の言う「ソフト・パワー」の力を著しく低下させたといっても過言ではない。
ひとりの日本人として、肩身の狭い思いをしないひとがいるとすれば、彼は、国際社会における恥をしらない、と言われても仕方がないだろう。
「恥を知れ」などと言うとずいぶんと日本的な考え方ではないか、と思われもするかもしれないが、英語でもこれに類する表現に"Shame on you!"があることは言い添えておきたい。




日本のメディアは、日本の現職の閣僚に対してはものごとを遠慮して言う傾向があると思われる。
その証左として、今回の甘利辞任劇が国際社会の日本のイメージについておよぼす影響について書いた日本のメディアはなかったように見受けられる。


このような政治の実態がつづくと、冒頭に述べたNye教授の言う(日本の)「ソフト・パワー」は、急速に凋落していくことを我々国民は心配する。